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東京地方裁判所 昭和47年(むのイ)1090号 命令

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一  本件準抗告の申立の趣旨およびその理由は検察官瀧賢太郎提出の準抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二  これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一件記録を検討すると、本件被疑事実は確かに重大事犯ではあるが、被疑者は犯行を自供し、裏付捜査も一応は尽くされており、その間にこれといった喰い違いもみられるわけではなく、とくに複雑困難な事件とも認められない。検察官主張のように、本件被疑事実と科刑上一罪の関係にある威力業務妨害罪を同時に処理する必要があり、そのための裏付捜査が残っているにしても、記録に微して明らかなように、被疑者は勾留中に精神鑑定のために鑑定留置に付され、その期間の満了日が昭和四七年一二月二九日であって、さらに、勾留の残存期間が僅か一日ではあるが残されており、それまでに被疑者の取調を除き、その余の捜査を遂げることは十分に可能であり、その他検察官主張のような事情を考慮しても証拠収集を困難とする事情は認められない。

ところで、本件においては、前記鑑定の結果が本件被疑事実の処分を決するにあたり、重要な資料となることが考えられ、そのための判断期間が必要となることや、結果如何によってはさらに捜査を継続する必要の生じることが予想され得るところではあるが、しかし、いまだ鑑定に着手したばかりで、その結果について全く予想し得ない現時点において、右の不確定な事実を勾留延長許否の判断資料とすることは相当でなく、むしろ、鑑定の結果を得た段階において右の各点を考慮したうえ、残存勾留期間内で事件を処理することが困難であると認められる場合にはその時点において勾留延長の許否を決すれば足りるものと解する。

以上のとおりであって、そのほか検察官主張の諸事情を考慮しても、現時点においては勾留延長につき刑事訴訟法二〇八条二項の「やむを得ない事由」があると認めることはできない。

よって検察官の勾留期間延長請求を却下した原裁判は相当であって本件準抗告は理由がないから棄却することとし、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 四ッ谷巖 裁判官 山田勇 平良木登規男)

〈以下省略〉

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